大晦日から北海道は大荒れ、結局、除雪三昧の元旦となりました。
そのせいでしょうか、ブログに写真が貼り付けられない・・・(-_-;)
吹雪の中で館内の神社に参拝したとことか、ネタはあったのに。残念・・
こんな時のための、秘密兵器を使います。
いつか、皆さんの目にとまればと思って準備していた記事。ちょっと長目ですけどお正月の箸休めにでもしていただければ・・・
この文章は、2006年網走タイムズ1月1日号に記事広告の形で掲載したものです。
『網走で一番大きな木はどこにあるか知っていますか』
網走で一番大きな『木』はどこにあるか知っていますか。それは博物館網走監獄の中にあるのです。
網走市内の皆さんの中には何度も見学をした方もいらっしゃると思います。でもそんなに大きな木は生えていなかったぞと、お考えになったのではありませんか。
一番大きな『木』は、普通に見学をしていては見つけづらいところにあります。この『木』を見つけるためには、少しばかり高いところに登っていただかなくてはならないのです。
何せ、この『木』は、高さにして80メートル以上、幅は150メートルを超えるのですから。
そう、答は博物館網走監獄に保存されている網走刑務所の五翼放射状平屋舎房なのです。空中から撮影した写真を見てください。どうです?『木』という字に見えませんか。
今日はお正月です。少しのんびりとこの大きな『木』を守り続けてきた人たちの話を聞いてもらえませんか。
博物館作りが始まった23年前、博物館運営のプロも専門の研究者もいませんでした。「素人集団」が、手探りで貴重な建物の保存と博物館施設整備を進めたのです。このことは「誰にでもわかりやすい博物館」作りにつながりました。
刑務所は特殊な場所です。建物の使い方を説明するのに、言葉だけではうまく伝えられないので、リアルな等身大の人形を配置して当時の様子を再現したのもその一つです。
現在、観光で博物館を訪れる団体の見学者には職員が付いて、一つ一つの建物の特徴や網走監獄のに様々なエピソードを説明するガイドツアーをしています。刑務所独特の専門用語は難しいので、ガイドを担当する職員それぞれが工夫をして解説をしています。
保存は、建物を一度解体し別な場所に移して組み建て直す方法を取りました。費用は予想より多額なものになりましたがメリットもあったのです。それは博物館作りを進める場所を自分達で決めることができた事です。
事業地は網走国定公園内・天都山のふもとに17万平方メートルを確保することができました。
広い事業地を確保できたことで実際には渡り廊下でつながっていた建物の間を離して移築建築を行なうことができました。距離があるので、万が一、火災・地震などの災害に襲われたときにほかの建物への延焼、損壊を防ぐこともできます。
刑務所は一般市民から見れば暗い歴史を持ち、特に古い刑務所の建物は、デザイン自体が収容者に威圧感を植え付けるようなものが多いのです。あまり長い時間いて気持ちの良いところではありません。 しかし見学していただいた方の気持ちを暗く鎮めたままでお帰りいただくというのはいかがなものでしょう。
おおらかで北海道らしい季節感あふれる自然環境の中に施設があることで建物内部の見学を終え外に出ると、多くの樹木や草花、足元を走り回るエゾリスや野鳥のさえずりが見学者の気持ちを和ませてくれます。これも移築による効果の一つといえるでしょう。
博物館網走監獄は公設の博物館ではないため、建物の保存や施設造りの仕事をするためには自分達で入館者を確保し資金を調達する必要がありました。 そのため、社会教育施設である博物館から一歩、観光よりに踏み出し、少しでも多くの方に訪れていただけるよう宣伝活動を実施しています。
観光客誘致キャンペーンに参加したり、独自に旅行代理店や航空会社への訪問活動を続けています。
また博物館では珍しい完全な無休体制を開館以来続けております。開館時間も夏期は、朝8時から夜6時までとしました。こうした事の積み重ねが利用者確保に繋がったのです。
集客活動を進めたのは、入館料収入を確保するためだけでなく『博物館は、資料を保存し、研究するだけでなく、より多くの利用者に、資料が意味することを伝えなくてはいけない・物と人の繋がりを取り持つのが博物館である』という考え方で歩んできたからです。
最近では海外からの入館者も増加をし、博物館運営、刑務所に対する研究も今までの国内だけを対象にしたものから、よりグローバルなものになっていくことでしょう。
世界各国の「刑務所博物館」との交流も始まっています。お国柄の違いから刑務所保存に対する考え方は様々なものがあるようです。しかしながら刑務所という非常に特異な歴史建造物を保存し公開しようという気持ちはどの博物館のスタッフも皆同じようです。
およそ30年前、街の人たちが集まり刑務所の建物を保存公開する博物館作りの夢を語り合いました。その夢は計画となり、市民による博物館作りが実現しました。間もなく開館から25年を迎えます。北海道には太古の姿を残す原生林がまだ残っています。その中で樹齢25年では、まだまだ若い木に数えられます。
昨年春には通算900万人目の入場者をお迎えしました。数年先には1000万人入館を実現できるでしょう。
博物館の仕事にはゴールがありません。貴重な文化財・網走刑務所の旧建築物を未来に伝え残さなくてはならないのです。関わっている人たちも次々と世代交代をしながら、博物館作りは進んでいきます。
網走刑務所の幹部だった方が言っていました。
『網走刑務所の古い建物は幸せだ。元は、更生させるのが目的だったとはいえ、人を閉じ込め、建物の中は職員の怒号と、収容者の恨みの声がこもっていた。それが博物館に移築公開されたことで、今は、観光客の若い女性や勉強に来たこども達の笑い声が満ち、周りを四季とりどりの花が飾る。最期まで刑務所として役目を終え解体されてしまう建物がほとんどな事を考えるとこんなに幸せな終生を迎える刑務所の建物はここ以外にはないだろう』
博物館網走監獄が、本当の大きな樹となり、周囲の人たちを癒し和ませる存在となるよう働いている人たちがいる、それは皆さんと同じ網走の普通の街の人たちなのです。