2008年10月8日水曜日

追悼 俳優 緒形拳さんのこと

10月5日、緒形拳さんが亡くなられましたね。

20年以上前ですが、緒形さんが当館にお見えになったことがあります。その日のことを思い出しました。

網走刑務所を含み四回の脱獄を行った人物をモデルにした吉村昭さんのノンフィクション『破獄』をドラマ化され主役の脱獄魔『佐久間』を緒形さん、彼の宿敵で後に更生にまで関わった刑務所職員を津川雅彦さんが演じられました。
  
撮影が網走でも行われたのですが当時、実際に『佐久間』が逃げた舎房は網走刑務所で現役で使用中だったため、撮影に使うことができませんでした。(舎房が当館に移転したのはこの翌年のことです)網走市内数ヶ所でロケーション撮影が行われたのですが、当館で保存公開している教誨堂内を所内の作業場に見立てた撮影が行われ、当館からは当時の職員で元刑務官のOさん、Yさんが看守役で出演しました。(このシーンは実際の放送では使われませんでしたが・・)


教誨堂

私は、荷物持ちで現場に入り込み、遠巻きに撮影の様子を覗いていました。
元刑務官のOさんは、昭和19年から網走刑務所で勤務、『佐久間』のモデルになった人物と実際に接触した経験をお持ちの方です。

撮影の合間に撮影スタッフの方がOさんに『佐久間』の人柄について質問をしたときです。Oさんは、こう応えました。

「あいつは、怪物のように怖かった。本の中で吉村先生は、○○がきちんと更生したように書いているようですが、私にはとても信じられない。○○は、扉越しに看守に話しかけてくるんだよ、迂闊に返事を返すと言葉巧みに看守を罠に落とすんだ。実際に味噌汁だけで扉や鉄格子壊して逃げれると思うかい?○○の逃走後にそっと辞めていった仲間(職員)が何人もいるんだよ、処分受けなかったまでも刑務所に、居れなくなるようなことをさせられたんだろうな。それが○○の本当の姿なんだと私は思うんだよ・・」 

実際に関わっていただけにOさんの言葉は重いものがあります。気づくとそこに真剣な顔をして話を聞く緒形さんがいらっしゃいました。緒形さんはOさんにその後も細かな質問をしていました。

この話が緒形さんの役作りの参考になったかどうかはわかりませんが、翌年、完成したドラマ『破獄』を拝見した際に緒形さんの鬼気迫る演技に驚かされました。この作品は、優秀なテレビ番組に与えられるいくつかの賞を受賞しています。

緒形さんを追悼し『破獄』が、NHKBS2で10月11日午後11時から放送されることになったそうです。

是非、お時間があればご覧いただければと思います。

*DVD、書籍も販売されています。